-ONE SILAT観戦記-

 2015年5月23日にマレーシアのプトラジャヤで開催されたONESILATを観てきました。金曜の夜に羽田を出発、翌土曜早朝にマレーシア着。イベントは土曜の夜に開催され、日曜の昼便で帰路に着き、自宅に着いたのは日付を周った午前0時半。我ながらなにしてんだろ、と思います。

 さて、まずはONE SILATとはなんでしょう。ざっくりと言えば、マレー伝統武術のシラットをベースとした総合格闘技ということになります。公式サイトによれば「シラットの新たな夜明け」だそうです。伝統とアマチュア競技の二本柱に、「興行」というプロルートを作り出そうという試みかと思われます。ただ、アマチュア競技の延長にプロ興行を位置させるというよりは、シラットベースの選手が入り込める総合格闘競技の新たなフォーマットを作り出すことを目指しているように思えました。

 ルールは基本的に何でもあり、とのこと。立ち技・寝技、頭への攻撃はもちろんOK。円型の試合場を3人の採点員が見守り、得点の高い方が勝者です。競技シラットでは赤と青のコーナーですが、ONESILATでは白と黒になっています。また、競技シラットでは白が基調のレフェリー服は赤シャツ+黒ズボンです。ちなみに採点員は上下黒でした。

リングは円型、黄色い部分は場外扱い
リング

 では、どのあたりが「シラットベース」なのか。ルールそのものは禁止技のほとんどない総合格闘です。(頭や肩を掴んでの頭部への膝攻撃は禁止。もう一つ禁止技があったはずですが忘れました) MCの説明によれば、以下の2点が「シラットに対する敬意」とのこと。
 1)入場に際してスマトラを中心としたマレー文化を象徴する頭巾*を戦士の象徴として授与される
 2)試合開始前にシラットの動きを最低8つ披露する
   *マレー語でなんか名前があったけど忘れた…

VIPから頭巾を授与されます。
頭巾

 上記2点以外にも、一応「女性選手に触れるのは同性のレフェリー(ボディチェックとワセリン塗)」「女性選手の試合を裁くのは女性レフェリー」という性別分担があるようです。競技シラットの場合は、コーナーに入る2名のうち1名は選手と同性であること(女性選手のコーナーには女性が1人いないとNG)が決められていますが、ONESILATはそうではないようです。

女性レフェリーによるボディチェック
ボディチェック

女性の試合は女性レフェリー
女性試合

 とはいえ、男性選手の試合を女性レフェリーが裁いていましたので、女性選手の試合は女性レフェリーというのは厳密な規則ではないのかもしれません。選手のユニフォームは大会指定の体にフィットするタイプです。将来的にヒジャーブをして参加したいという選手がいた場合、このフィットタイプを着用するのは心理的ハードルが高いでしょうね。

 入場からボディーチェック、頭巾の授与と型の披露。1ラウンド3分で休憩1分、全3ラウンドを戦います。採点が集計されて勝敗が決するまで、全体で約25分かかっていました。選手にはファイトマネーが支払われますが、スポーツマンシップに悖る行為を行う度に減額されると聞きました。

攻撃NGエリアは特になし
頭部ok

 本イベントは初回ということもあり、マレーシア若者フェス2015の一環として行われ、入場無料。入場無料でここまでのセッティングとファイトマネーの準備、各支給品や販売品の用意はすごいです。スポンサーがついたとはいえ、このフォーマットを国際的に輸出したいマレーシアとシンガポールの鼻息の荒さを感じます。

 イベントの運営そのものは…まあ、18時スタート予定が19時45分とかは許容範囲…でもないか。理由がマグリブ(日没)礼拝だったので、そんなの最初っからわかってる話ですからね。開始時間の突然の変更以外は、基本的にスムーズな運営だったと思います。ただ、初回ということでプログラムが盛りだくさん過ぎました。1試合に25分かかる上、合間合間に伝統流派のパフォーマンス、レフェリーによるシラット型披露、VIPの演説、テーマソングを歌うラップグループのライブ、などなどを挟むものだから、何時に終わるのか全く見当がつきません。

伝統流派のパフォーマンス
伝統流派

レフェリーによる型披露
レフェリー

 試合を半分観たあたりで先に帰りました。帰り道で車社会マレーシアの罠に嵌ったため、最後まで観ていた方が結局ホテル帰着は早かったかも、というのは考えないことにします…なんで皆マイカーなんだ!!土曜夜のプトラジャヤでタクシーを捕まえるのがあんなに大変だとは思わなかったです。携帯で呼び出そうにもタクシー会社の電話番号も現在地もわかんないし…ホテルに戻れて本当によかった…

 で、この新たなフォーマットがどうなるかと言えば、全く謎。東南アジアの勢いを反映して大化けするかもしれないし、シラットの新展開として市民権を得るかもしれません。あるいは他の総合格闘競技への登竜門といえば聞こえはいいけれど、ただの踏み台にされる中途半端なイベントになるかもしれません。最初から完璧なシステムで走り出すことはできない相談です。フィードバックと試行錯誤を繰り返しながら、ベストな形を目指してマレーシアとシンガポールがけん引していくことでしょう。

 試合映像はそのうちyoutubeの公式チャンネルに上がるでしょう。それまでは参考までに画像粗いですが、興味のある方はこちらをどうぞ。
 1) キック&サンダがバックグラウンドのインドネシアvsシラットのカザフスタンによる開幕試合 ラウンド1 ラウンド2 ラウンド3
 2) オープニングを含むグラウンドも出てきた元シラット選手同士(シンガポールvsベトナム) ラウンド1