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- 目指せ武術オリンピックin韓国 -
2019年8月30日〜9月6日に韓国のチュンジュ(忠州)で開催されたワールド・マーシャル・アーツ・マスターシップス2019に参加してきました。マスターシップスとしての開催は2回目、第1回は2016年に開催されています。UNESCOの世界無形文化遺産として登録されているテッキョンドの本拠地である忠州で、西洋発競技に占められているオリンピックに対し、東洋の格闘競技を競う武術のオリンピック、という位置づけのようです。勝者は「チャンピオン(王者)」ではなく、「マスター(達人)」ということで、タイトルは「マスターシップス」となっています。
ワールド・マーシャル・アーツ・マスターシップス2019概要
(1)大会について
(2)大会参加国
(3)大会日程
(4)競技種目
(5)競技結果
大会こぼれ話・裏話
8月30日(金):今年2回目の韓国行
8月31日(土):審判講習
ワールド・マーシャル・アーツ・マスターシップス2019 in チュンジュ(2~5 Sep. 2019)概要
ワールド・マーシャル・アーツ・マスターシップス2019 in チュンジュについて
6月に行われたテストイベントから3か月、とうとう本番のワールド・マーシャル・アーツ・マスターシップス2019。このイベントは毎年行われている忠州武術祭の発展形として、2016年に初めて”東洋の格闘競技を競う武術のオリンピック”として開催された。2016年はソウル近郊で実施されたようだが、今回は主催のWOMAUの本拠地、忠州での開催である。
IOCやOCAに関係したイベントではないが、GAISFや韓国文化スポーツ観光省や韓国オリンピック員会、韓国UNESCOの協力を得ているようだ。
東南アジア諸国(5) : インドネシア(M3F2,M:TG,F:T)、フィリピン(M3,F2,
M:TG, F:TG)、シンガポール(M6,F2, M:T, F:TG)、タイ(M6,F4,M:TG, F:TG)、ベトナム(M5F2,
M:TG,F:TG)
アジア諸国(7) :インド(M5,F2,M:T,F:TG)、韓国(M3,F1)、中国(M1)、台湾(M1)、カザフスタン(M2,F:T)、キルギスタン(M3)、日本(MT) バングラディシュ(M8,F1,M:TG,F:T)
*トーナメント表・結果一覧から各国の実際の登録人数を計算した。最終的に試合部門男子選手36名(不在のバングラディシュを含まず)、女子選手13名、演武部門男子選手15名、女子選手17名の総計81名が参加した大会となった。当初配布された登録人数はバングラディシュを含んで119名である。バングラディシュの13名のキャンセル及び、中国(7→1)、台湾(3→1)、カザフスタン(9→3)、キルギスタン(6→3)、韓国(7→4)の選手数減が大きく影響している。
**選手派遣はなかったが、オランダが審判のみ派遣していた。
マスターシップスの開会式は8月30日だが、シラットの初日は9月2日である。また、閉会式は9月6日だが、シラットの最終日は9月4日であった。ある程度は事前に配布されたスケジュールに沿ってはいたものの、やはり前日、その場での変更は多々発生した。
日付 イベント 1(日) 審判講習、組み合わせ抽選 2(月) 開会式&演武部門決勝&表彰式&試合部門1回戦(準々決勝) 3(火) 演武部門決勝2&表彰式&試合部門準決勝 4(水) 試合部門決勝&表彰式&開会式
プンチャック・シラットの試合には大きく分けて、体重別の階級で打ち合う試合部門と規定の型を競う演武部門とがある。今大会では以下のクラス/型でそれぞれの技が競われた。黄色は日本選手が参加したクラス。
1.男子試合部門(Tanding) Bクラス - 50kg以上55kg未満 Cクラス - 55kg以上60kg未満 Dクラス - 60kg以上65kg未満 Eクラス - 65kg以上70kg未満 Fクラス - 70kg以上75kg未満 Gクラス - 75kg以上80kg未満 Hクラス - 80kg以上85kg未満 Iクラス - 85kg以上90kg未満 Jクラス - 90kg以上95kg未満 |
2.女子試合部門(Tanding) Bクラス - 50kg以上55kg未満 Cクラス - 55kg以上60kg未満 |
3.男子演武部門(Seni) Tunggal (ソロ) Ganda (ダブルス) |
4.女子演武部門(Seni) Tunggal (ソロ) Ganda (ダブルス) |
*は勝利なしのメダル、取り消し線は参加登録のみで、実際には選手不在。
最多金メダル獲得はシンガポールの4つ、続いてベトナム3、タイ2、インドネシア2となっている。インドネシアチームのアジア大会金メダリスト2名は、メダルなし&銅メダルに終わった。金メダル数では落ちるものの、最多メダル獲得はタイであった。
部門 | 種目 | 結果 |
男子試合 | Bクラス | 1.インドネシア 2.シンガポール 3.フィリピン、ベトナム |
Cクラス | 1.インド* 2.韓国* 3.カザフスタン、キルギスタン | |
Dクラス | 1.ベトナム 2.シンガポール 3.フィリピン、タイ | |
Eクラス | 1.韓国 2.キルギスタン* 3.インド*、カザフスタン | |
Fクラス | 1.キルギスタン 2.韓国 3.中国、台湾 | |
Gクラス | 1.シンガポール 2.ベトナム 3.フィリピン*、タイ* | |
Hクラス | 1.タイ 2.ベトナム 3.中国、カザフスタン | |
Iクラス | 1.シンガポール 2.タイ* 3.中国、カザフスタン | |
Jクラス | 1.ベトナム 2.シンガポール 3.キルギスタン*、タイ* | |
女子試合 | Bクラス | 1.ベトナム 2.インドネシア 3.タイ、韓国 |
Cクラス | 1.インドネシア 2.タイ 3.ベトナム、カザフスタン | |
男子演武 | Tunggal | 1.シンガポール 2. タイ 3.インドネシア |
Ganda | 1.フィリピン 2. インドネシア 3.タイ | |
女子演武 | Tunggal | 1.シンガポール 2. ベトナム 3. インドネシア |
Ganda | 1.タイ 2. シンガポール 3. フィリピン |
大会こぼれ話・裏話
今年2回目の韓国行きです。人生では5回目ですが、全てシラットに絡んでの渡航なので、韓国事情はさっぱりわからないまま。大会のための渡航で一番の鬼門は、送迎とうまく会えるかどうか。前回6月の渡航では知り合いの韓国審判が送迎係でしたが、はてさて今回はどうなるでしょうか。オリンピック並、を謳う(目指す)大会なので、まあ大丈夫でしょう。
というのは少し甘かった・・・時差のない国への3時間弱のフライトの後、ゲートを出ても誰もいない。事前に聞いていたゲート1付近にあるというインフォメーションデスクもない。うーん、どうしよう。幸い、到着したのはこじんまりとした金浦空港です。少しうろうろしたところ、ゲート2にインフォメーションデスクが見つかりました。
さて、デスクにいた係に声を掛けます。そして驚愕の事実が発覚しました。なんとcizmaの名前が到着リストにない!それは送迎の人(ウェルカムボードとか持ってる)がいないわけです。あーもうまぢか、なんでだ。これはあれですか、日韓関係がこじれていることと関係が・・・?などと卑屈になりかけますが、まあ、関係ないですね。スポーツと政治は別物ということにしておかないと、いろいろと平和が保てません。
もちろん、係の人も驚いて本部と連絡を取り始めました。予定にない人に割ける移動手段がないようです。一瞬、公共交通機関(高速バス)での移動も覚悟しました。でも最終的に、もう30分もすると新たに到着する人がいるので、そのために用意されている車に同乗し、シラット審判団宿舎まで行けることになりました。あーよかった。
大会会場と宿舎のある忠州までは3時間以上かかります。送迎車両の最初の目的地、同乗者である合気道関係者の宿舎に着いたのが、空港を出てから2時間半後。そこからさらに1時間ほど、シラット審判宿舎に着いたのは15時半でした。飛行機が3時間未満でも、車移動が長いので、結局トータルの移動時間は6時間ほど。自宅を出てからは既に8時間は経ってました。遠い。
幸い、今日は特に予定はありません。チェックインして、荷ほどき、一休み。
ちなみにこの宿舎(ホテル)、温泉地にありました。そのせいかホテルのフロントに英語が通じません。インバウンドの来ない旅館もこんな感じなのかな、ちょっと不便。インフォメーションデスクのボランティアが通訳してくれますが、彼らとスマホがなかったら意思疎通不可能です。
夕食を取ろうと下に降りたところ、シンガポール審判団が出かけるところに遭遇しました。どうやら、本日開催される開会式を見に行くようです。誘われましたが、明日は朝から予定があるのに、屋外スタジアムで2時間ほど過ごし、さらに往復に2時間弱をこなす体力は残っていません。おとなしく宿舎で留守番します。
夕食後、同宿の他競技審判に教えられ、ユニフォームの受け取りに行きました。オリンピック並を目指す本大会は、アジア大会のように揃いのスーツを支給してくれるのだそうです。そして当然ながらサイズが合わない。もちろん、それを見越して試着室が用意され、採寸係がスタンバイしていました。ズボンの裾とジャケットの袖の直しを依頼し、シャツとネクタイだけを受け取って部屋に戻ります。そしてこの時点では、このユニフォームを「実際に着る」という考えは全くありませんでした。シラットの審判服は別にありますし、持参しています。サイズを直してしまっては、誰かに譲るのも難しい、くらいのことしか感じていませんでした。それがあんなことになろうとは・・・・
今日は一日、ホテルの会議室に籠って審判講習の予定です。
講習開始に先立ち、韓国の会長挨拶や現場責任者による大会概要説明がありました。その中で繰り返し強調されたのが、「今大会は東洋発の競技によるオリンピックである。この大会での成功はシラットのオリンピック採用に向けた試金石だ」というものです。西洋発の競技で独占されたオリンピックとは異なる方針で運営されているのが”マスターシップ”である、と。オリンピックにもいろいろと西洋発以外のものがありますけど、始まりの時点では確かに柔道とかテコンドーはありませんでしたからね。
そして、優勝者は「チャンピオン(王者)」ではなく「マスター(達人)」である、との意味を込めて、大会名が「マスターシップ」なのだそうです。一部では、マスタークラス(オーバーエイジ)のための大会と誤解している向きもあるようで、ここも強調していました。
今大会にシラットが採用されるにあたり、運営から提示されたいくつかの事項を受け入れています。その一つがコーチに関するもの。まず、シラットの場合、選手と同性のコーチがコーナーに入る必要があります。チームによっては、選手と同性のコーチがおらず同性選手がコーチ役として入ることもあります。元はイスラムのエチケットを踏まえたルールです。男性コーチが、(家族でもない)女性選手の汗を拭いたりマッサージしたり、はよろしくないだろう、という(逆もまたしかり)発想です。しかし、今大会においては、これが撤廃されます。
そして次に、コーチにはイエローカッド&レッドカードが出るとのこと。シラットのルール上、コーチは静かに観戦し、試合中はアドバイスを送ってはいけないことになっています。アドバイスをしていいのは、ラウンドとラウンドの間の休憩時間のみ。まあ、最近はあまり守られておらず、どこのチームもコーチが声を張り上げてますけど。それが、今大会では選手は「己の力」で試合に臨むことが求められ、運営によって全競技に共通して、コーチ退場制度を適用されるとのことです。指定されているコーチの椅子から立ち上がったらイエロー。イエロー二枚でレッドとなり、セキュリティにドナドナされると発表されました。立ち上がり、決められた線を越えて近づいたら一発レッドです。でも、事前に通知しておけば、誰もカードを喰らわないような気がします。
さらにもう一つ、運営からの提示事項がありました。それは審判の服装について。どうも、運営が支給したユニフォーム(白いジャケットと濃紺のスラックス、白いワイシャツ+ネクタイ)は、「本番で着用」が義務付けられているようです。しかも靴を履きなさい、と。これは・・・うーん。どうするんだろう。現場としては国際プンチャック・シラット連盟の了承さえ取れれば、ユニフォーム着用で臨みたいようです。それにしても、靴はなあ。とりあえず、現段階では未定とのこと。それでも、各自忘れずにユニフォームを受け取るように、とのことでした。
あと、こちらは運営からの提示事項ではなく決定事項として、旅券没収されました。法的にどうなの。ありなの。まあ、どこにも出かけませんけど、旅券が手元にないのは心もとないですね。コピーも写メも持ち歩いてはいますが・・・。どうも、2016年に開催された第1回大会で、大量の失踪者が出たそうです。(そしてそれを全部、顔認証システムで追跡し確保したという)
いや、逃げませんよ、と思うけれど、国単位で扱いを変えるわけにもいかないし、一括して集めることにしたのでしょう。さらに、後日知りましたが、当然選手も没収されていたそうです。しかも選手は宿舎の出入りの際には報告義務もあったとかで、驚きです。
そんな説明の後、午前と午後をフルに使って、審判技能の復習=講習が行われました。夕方には会場に移動して、実際の採点システムを練習することになっています。
到着してみたら、まだ本日のカバディが終わっていませんでした。でもおかげで、観戦ができたので嬉しい。しかもタイミングよく、日本戦です。負けてしまいましたが、準決勝だったようです。明日、3位決定戦でしょう。全くルールがわからなかったので、帰国したら「灼熱カバディ」でも読もうと思いました。
採点システムは基本的に、6月にテスト運用したものと同じでした。中央審判部用の新たなタブレットが一つ追加されていましたが、画面が小さくて見づらそうです。あと、各審判のデータが中央のタブレットに反映されるまで、若干のタイムラグが発生しているようでした。微調整されるのかな?
途中、今日の日没でイスラム暦新年に切り替わるとのニュースが入りました。多分、誰かの携帯にメッセージが入ったのだと思います。俄かにソワソワし始めるマレーシア&シンガポール審判たち。日本でムスリムをしてるとあまり実感湧きませんが、彼らにとってはかなり特別なことなようで、さらに特別な礼拝もあるとか。彼らから今日はもういいじゃん、明日も準備できるんだし、早く宿舎に戻ろうという空気が漂い始めました。その勢いに押されたのか、予定より少し早めに会場を辞し、宿舎に戻ることができました。