- プンチャック・シラット採点機械化について -

 第14回プンチャック・シラット世界大会からプンチャック・シラットの採点に機械が導入されました。最終目標を「オリンピック種目採用」に置く”競技”としては、採点の機械化は必須なのだそうです。機械の解説、及び機械導入後の試合に関する考察をば少々。機械にはTanding(試合)部門用とSeni(演武)部門用の2種類があります。

Tanding用採点機解説

Tanding用採点機
Tanding採点機

 手書きの場合において、採点表に記載される点数が全て「ボタン」になっています。(採点の詳細については、ルールブック第2章第7条6.7.1「採点規則」を参照のこと) 利用の流れとしては

 1)審判着席時に右上の赤ボタンでリセット
 2)自動的に第1ラウンドへの入力可能状態になる・・・はずなんですが、たまに「I」を押さないと反応  しないことがありました。
 3)試合中、青コーナー選手への点は青ボタンを、赤コーナー選手への点は赤ボタンを押して加点   する。ペナルティーによる減点も同様。
 4)第1ラウンド終了後、第2ラウンドに入力するために中央にある「II」ボタンを押す。
 5)第2、第3ラウンドは上記3,4の繰り返し
 6)加算・減点の計算は機械が自動で行い、合計点が最下段に表示される。
 7)試合終了後、中央にある「FINISH」ボタンを押して結果を「確定」する。確定後はスコアの修正不  可。また、確定しないと採点結果をプリントできません。

 次に、採点用数字ボタン以外の解説です。「」「」は、同一ラウンド内においてのスクロール用です。このボタンでラウンド間のカーソル移動は出来ません。入力を間違えた場合は「DEL」で消去します。確定前であれば、各ラウンドの採点を修正できます。例えば、第2ラウンドと第3ラウンドのインターバルの間に第1ラウンドで青コーナーから減点した点が本来は赤コーナーから減点するべきものであったことに気づいたとします。この場合、「I」ボタンを押してカーソル移動で青の減点を「DEL」、赤に減点追加という作業が可能です。

 ただし、採点は審判委員会(DewanWasitJuri)がモニタリングしているので、上述のような減点のコーナーミスなどは即時に審判委員会より修正の指示が入ります。審判委員会からの注意、スコア修正作業のために試合が中断されることが、ままありました。
 採点に関しては審判委員会がモニタリングしていますが、機械の状況に関しては審判委員会の隣に陣取るITスタッフがモニタリングしています。第1ラウンドが終わったのに「II」ボタンを押していない、試合が終わったのに「FINISH」を押していない、などがわかります。ITスタッフが発見した修正が必要な事項等も審判委員会から注意が出ます。これによっても試合が中断することがありました。

審判委員会のモニタリング用
モニタリング

全審判の点数が一目瞭然
モニタリング2

 大会においては、試合"後"に全審判の採点結果を張り出すことがルールで定められています。しかし、機械化されたことにより、審判の一挙手一投足、もとい、1点1点がリアルタイムでプロジェクターに反映されるようになりました。

プロジェクター画面
プロジェクター

 画面には合計点が映し出されますが、加点減点の結果はリアルタイムで反映されるので、どの審判が何点入れたか、あるいは入れなかったのか、が観客にわかります。つまり、表示されていた0が1になれば、1点入れたとわかりますし、変わらなければその審判は点を入れなかった、ということがわかるのです。
 この画面表示は良し悪しですね。正直なところ、リアルタイムで加点減点結果を出す必要はなく、ラウンド終了後に当該ラウンドの合計点のみ表示されれば十分だと思います。審判は「見たもの」しか採点しませんし(例:パンチが決まった音がしても選手の背中や審判が邪魔になり決まった瞬間が見えなければ加点しない)、細かな採点基準はルールブックに定められています。ルールブックの基準に満たない攻撃は採点しないのです。(ルールブック第2章第7条6.7.2「技術点の必要条件」参照) でも、大概の観客はこの基準を知りません。たとえ知っていても応援する選手に点が入らない状況には、当然ながら大ブーイングが出ます。今大会では、歓声や野次に負けない根性が試されました。ルールに則って加点をしなかったアングロサクソンな審判は「ayo, orang putiiiih!」って野次られたそうですよ・・・
 また、得点が競っていればまだしも、表示により勝敗が明らかになってしまうと、負けている方はモチベーションだだ下がり。なにかを掴んで帰ろう、ひとつでも技をかけてやる、という気概の見える選手ばかりではないのが残念です。勝っている方は明らかな時間つぶしに回るのも、今回多くみられた現象でした。たとえ僅差でも勝ってる方は「逃げ」に入るケースがあり、観ていて気持ちのいい試合とは言えません。
 ラウンドの経過時間が表示されているのも、いいような悪いような。コーチがいちいちストップウォッチ片手に指示を出す必要はなくなりましたが、観客がカウントダウンを始めてしまうのはいかがなものかと。カウントダウンが聞こえると、勝ってる方の選手は完全に「逃げ」か「時間つぶし」に走りますね。

 機械化の利点としては、全てが表示されるため不正がしにくい状況になること、あとは、勝敗の決定が迅速になり1試合にかかる時間が減ったことでしょうか。自動計算のため、計算ミスが発生しないですし、加点減点のミスは審判委員会により即時に修正が入るのは大きなメリットです。数字ボタンの位置を覚えてしまえば、手元を確認する必要もありませんので、より試合に集中できます。

Seni用採点機解説

Seni用採点機
Seni採点機

 Seni用機械は1つですが、規定型を競うソロ・チーム演武(Tunggal/Regu)と自由演武のペア演武(Ganda)では若干使い方が違います。まず、ソロ演武における使い方です。

 1)審判着席時に中央の黄色いボタンでリセット
 2)黄色いボタンの隣にある T(ソロ) G(ペア) R(チーム) のうち、これから始まる競技のランプが  ついていることを確認する。ランプ操作はITスタッフにより行われる。
 3)罰則及び採点規定に基づき(ルールブック第2章第8条5.2.1a及び6.1.1)減点する毎に「-」ボタン   を押す。
 4)規定型のJurus(パート)が変わる毎に「」ボタンを押す。
 5)罰則規定に基づき(ルールブック第2章第8条5.2.1c)減点事項発生時に以下のボタンを押す。
  c1:境界線を越える動作「EBL」(E・・なんだっけ。BL>Bolder Line)
  c2:規定外に武器が落下「WD」(Weapon Drop)
  c3:規定外の服装・武器及び演武中の服装落下「ICW」(Incorrect Costume Weapon)
 6)演武終了後、採点規定に基づき(ルールブック第2章第8条6.1.2)スコアを決定し、数字ボタンでス  コアを入力する。入力後、「SAC」ボタンを押してスコアのカテゴリーを確定する。
 7)演武時間のアナウンスを聞き、必要に応じて「-10」「-15」「-20」ボタンを利用して減点する。
  (ルールブック第2章第8条5.2.1b) 
 8)赤ボタンを押してスコアを「確定」する。確定しないと採点結果を印刷できません。

 確定前であれば、5,6,7のスコアを修正することは可能です。修正は「DEL」ボタンを押して行います。チーム演武も上述の使い方と同じですが、参照するルールブックの該当箇所は第2章第10条となります。

 次に、ペア演武(Ganda)の場合です。

 1)審判着席時に中央の黄色いボタンでリセット
 2)黄色いボタンの隣にある T(ソロ) G(ペア) R(チーム) のうち、これから始まる競技のランプが  ついていることを確認する。ランプ操作はITスタッフにより行われる。
 3)罰則規定に基づき(ルールブック第2章第9条5.2.1b)減点事項発生時に以下のボタンを押す。
  b1:境界線を越える動作「EBL」(E・・なんだっけ。BL>Bolder Line)
  b2:規定外に武器が落下「WD」(Weapon Drop)
  b3:規定外の服装・武器の着用・利用「ICW」(Incorrect Costume Weapon)
 5)演武終了後、採点規定に基づき(ルールブック第2章第9条6.1)スコアを決定し、数字ボタンでス   コアを入力する。入力後下記ボタンを押してスコアのカテゴリーを確定する。
  6.1.1「TCH」 6.1.2「SAC」 6.1.3「EXP
 6)演武時間のアナウンスを聞き、必要に応じて「-10」「-15」「-20」ボタンを利用して減点する。
  (ルールブック第2章第9条5.2.1a)
 7)赤ボタンを押してスコアを「確定」する。確定しないと採点結果を印刷できません。

 こちらも、確定まであればスコアの修正は可能です。

 Tanding同様に審判委員会においてモニタリングされています。ペナルティーのミスは演武終了後に修正の指示が入ります。写真を撮り忘れましたが、演武部門もTanding同様に採点の様子がリアルタイムでプロジェクターに反映されます。リアルタイムと言ってもSeniの場合は、Tunggal(ソロ)とRegu(チーム)の 3 部分による減点1が積み重なっていく様子が見えるだけです。正確には、積み重なっていく、というよりは当初の「100」から徐々に引かれていく様子が見える、ということになります。これ以外の点数は演武終了後に各審判が各々の判断で入力した数字が映し出されるのです。

 Seniの場合、審判にとって、機械化のメリットはあまりないように思えます。Tanding同様に計算は楽です。ペナルティーが積み重なった場合の合計減点数の計算や、どの選手が最高得点を取ったのか、などなどTanding以上に計算が必要な場面は多く、その点では各審判も審判委員会も作業がひとつ減った、と言えるでしょう。
 問題は、Tunggal(ソロ)とRegu(チーム)の場合です。こちらは規定型を競うもので、利用の流れに書いたとおり、Jurus(パート)が変わる毎に↑ボタンを押さなければなりません。この動作が必要なおかげで、選手の演技の正確さ等採点すべき内容への集中力を100%にはできないのです。パート3からパート4に移動したことが目でみてわかっていても、その部分でボタンを押していると、流れていく次の動作のチェックがどうしても甘くなってしまいます。紙の場合だと視線を動かすだけなので、ボタンを押すのに必要な神経とは違う場所が働いているようです。でも、ただ単に慣れの問題かもしれません。演武に集中して↑ボタンを押すタイミングを外しまくってましたが、数をこなすにつれて、タイミングが合うようになりましたから。

 結論として、機械化を中止するという流れにはならないと思います。導入を規定路線として、機械に合わせたルール改定や審判育成、戦術研究が必要になってくるのでしょう。次に機械が使われるビックゲームは恐らく、11月のSEAGAMES(東南アジア総合競技大会)です。今回の反省点や改正要望が活かされるといいんですが、多分そんなことはないんでしょうねぇ。