- 第26回東南アジア総合競技大会"SEA GAMES" + バンドゥン -

 2011年11月12日から17日までインドネシアで開催された第26回東南アジア総合競技大会(通称:SEA GAMES)のプンチャック・シラットの部に審判として参加しました。初めて、”代理戦争としてのスポーツ”を目の当たりにした気がします。 大会てんやわんやをメインに旅行記なんぞ。

第26回東南アジア総合競技大会"SEA GAMES"Pencak Silatの部 概要
 (1)大会について
 (2)大会参加国
 (3)大会日程
 (4)競技種目
 (5)競技結果

大会こぼれ話・裏話&バンドゥン行ってきた
 11月10日(木):日系航空会社で直行便
 11月11日(金):予想外のオフ
 11月12日(土):開会式そして試合開始
 11月13日(日):大会は続く
 11月14日(月):まだ大会は続く
 11月15日(火):夜は演武部門決勝
 11月16日(水):中休み
 11月17日(木):決勝そして閉会式
 11月18日(金):バンドゥンへ
 11月19日(土):とんぼ帰りジャカルタ
 11月20日(日):帰国へ
 11月21日(月):成田着と後日談と番狂わせ

第26回東南アジア総合競技大会"SEA GAMES"Pencak Silatの部(12~17th Nov. 2011)概要

SEA GAMESについて

 東南アジア総合競技大会なので、参加資格は「ASEAN諸国11ヶ国」です。この大会はアジア地域で最も歴史のあるアジアオリンピック委員会公認の地域大会だったりもします。東南アジア諸国によるオリンピックとでも言えば、イメージしやすいかな。1959年に第1回大会が、そしてその後は2年に1回開催され、今回で第26回。プンチャック・シラットは第14回の1987年ジャカルタ大会から正式種目として採用されています。その他詳しくはwiki先生にでも聞いてくださいw
 現地では、一時不振に喘いだ東南アジアのスポーツ大国インドネシア(人口多いからね・・・)が、ホスト国として、運営・競技成績の両面での成功をなんとしても達成したい意気込みが随所に感じられました。

PencakSilatの部、公式案内板

PencakSilatの部参加国 (全10ヶ国)

 ASEAN全11ヶ国のうち、カンボジアを除く10ヶ国が参加 : インドネシア、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、タイ、フィリピン、ラオス、ミャンマー、東ティモール

PencakSilatの部日程

 参加選手が少ないのか、基本的に夜はフリー、という日程表でした。移動のある選手に配慮したのかもしれません。そう、今回は通常とは逆で選手団がホテル、審判団が施設隣接の合宿所、という宿泊体制だったのです。。
 基本的な行動パターンは・・・

6:30-      朝食
8:30       試合会場集合
9:00-11:00  午前の部開始(予定)
         昼食
14:00-16:00 午後の部開始(予定)

 午前の部と午後の部の間、選手は宿舎に戻ることなく、審判団が宿泊する施設の空き部屋で休憩していました。移動してたら、渋滞で戻れなくなるからね。

日付 イベント
10(木) 選手登録 / メディカルチェック / 体重測定
テクニカルミーティング・組合抽選
12(土) 開会式、試合部門1回戦
13(日) 試合部門2回戦、演武部門予選
14(月) 試合部門3回戦
15(火) 試合部門準決勝、演武部門決勝
16(水) 決勝に備えて中休み
17(木) 試合部門決勝、閉会式

競技種目

 プンチャック・シラットの試合には大きく分けて、体重別の階級で打ち合う試合部門と規定の型を競う演武部門とがある。今 大会では以下のクラス/型でそれぞれの技が競われた。

 
 1.男子試合部門(Tanding)
  Aクラス - 45kg以上50kg未満
  Bクラス - 50kg以上55kg未満
  Cクラス - 55kg以上60kg未満
  Dクラス - 60kg以上65kg未満
  Eクラス - 65kg以上70kg未満
  Fクラス - 70kg以上75kg未満
  Iクラス - 85kg以上90kg未満
 
 2.女子試合部門(Tanding)
  Bクラス - 50kg以上55kg未満
  Cクラス - 55kg以上60kg未満
  Dクラス - 60kg以上65kg未満
  Eクラス - 65kg以上70kg未満
  Fクラス - 70kg以上75kg未満
 
 3.男子演武部門(Seni)
  Tunggal (ソロ)
  Ganda (ダブルス)
  Regu (3人チーム)
 
 4.女子演武部門(Seni)
  Tunggal (ソロ)
  Ganda (ダブルス)
  Regu (3人チーム)

競技結果

 最後まで会場に居たわけではないので、MVPがあったかどうかわかりません。多分、なかったんじゃないかな。最多メダル獲得国はホストとしての体面を保ち(いや、泥を塗った的メダルが1つあるけど)、インドネシアが獲得。しかし、相変わらず獲得金メダルの大半は演武部門によるもの。(総数9つのうち、6つが演武) 試合部門のみをみると、金メダル7個獲得で2位のベトナムに大きく水を開けられています。前の旅行記で「試合部門の「勝てない」状況は11月に開催されるSEAGAMES(東南アジア地域オリンピック)までに改善されるのでしょうかね?」と書きましたが、改善どころか悪化してるよ?大丈夫?

 大会の詳細については、審判業務に没頭していたこともあり、きちんとメモを取っていません。でも、今大会の主催はPERSILAT(プンチャック・シラットの団体)ではなく、曲がりなりにもKONI/INASOCなので、結果表をもらえました。

部門 種目 結果
男子試合 Aクラス インドネシア vs タイ *インドネシア優勝
Bクラス ベトナム vs フィリピン *ベトナム優勝
Cクラス ベトナム vs タイ *ベトナム優勝
Dクラス インドネシア vs マレーシア *マレーシア優勝
Eクラス マレーシア vs ベトナム *マレーシア優勝
Fクラス マレーシア vs タイ *マレーシア優勝
Iクラス ベトナム vs インドネシア *ベトナム優勝
女子試合 Bクラス ベトナム vs インドネシア *ベトナム優勝
Cクラス インドネシア vs タイ *インドネシア優勝
Dクラス インドネシア vs ベトナム *ベトナム優勝
Eクラス インドネシア vs マレーシア *インドネシア優勝
Fクラス ベトナム vs インドネシア *ベトナム優勝
男子演武 Tunggal 1. インドネシア 2. ベトナム 3. マレーシア
Ganda 1. インドネシア 2. ベトナム 3. シンガポール
Regu 1. インドネシア 2. ベトナム 3. ブルネイ
女子演武 Tunggal 1. インドネシア 2. ベトナム 3. ブルネイ
Ganda 1. インドネシア 2. ベトナム 3. マレーシア
Regu 1. インドネシア 2. ベトナム 3. ブルネイ

大会こぼれ話・裏話

 twilogを見返しながらの大会こぼれ話など。

11月10日(木):日系航空会社で直行便

 実は、審判には「8日ジャカルタ着、9,10日に審判講習、11日開会式、ジャカルタには19日までいるように」との案内状が届いてます。でも、cizmaの出発は10日。審判講習をブッチです。案内状が届く前に打診されたスケジュールに基づいてチケット取っちゃったんですよね。正式な案内状待ってたら、航空券代がものすごいことになるんじゃないか、と思って。幸い、審判講習のメインは「機械に慣れること」だったようですし(=cizmaha機械採点経験済)、9日午前中からやる予定だった講義も、審判のジャカルタ入りが遅れたため(午後着の審判が多かったようです)、講義自体が中止になったとか。ムリにチケット変更したり、休暇を追加しなくても支障はなかったようです。アハハ。

 さて、今回の渡航は初めて日系航空会社ANAの直行便を利用します。朝早いので、暗いうちに家を出ることになりました・・・太陽が出る前って寒いわぁ。そして、成田も24時間営業じゃないので、あっちこっちが開店前。

閉まってるのを初めて見た
ゲート閉鎖中

 機体は座席のテレビの画素数が高い、新しいもので満足。乗務員さんもいわゆる「日本的サービス」で基本、満足。満足いかなかったのは・・・機内食!! ハラールにこだわっているわけではないのですが、面白いので大体、ムスリムミールを注文しています。その結果、ANAはまず、ツメが甘い。SQや欧州系航空会社だと、配る軽スナックも配慮してくれます。ピーナッツが一般的なので、ま、これは代替を用意するまでもなく皆さん食べられるんですけどね。がしかし、ANAはおせんべいでした。配った後に「これは特別食対応していないので、原材料を確認してください」と注意してくれたのは、よしとします。でもこれ、日本語読めない人だったらわかんないよ?豚由来だと明示はされていないものの、通常cizmaが購入を避ける原料が入ってました。食べられません、といったらそれで終わり。代わりにバナナでもくれればいいのに・・・
 そして、ご飯。今までで一番のヒットは美食の国フランスのエールフランスの機内食。経験的にムスリムミール=カレーな図式が出来上がっていたcizmaにとって、AFの機内食は衝撃だったのです。普通の食事を美味しく出してくれました。そしてANA。和食はハラール化しやすいと思うんです。ジャカルタ行きだから、インドネシア料理を出す、という手もありますよね。ああ、ちょっとでも期待した自分が悪いのか。結果は定番のカレー。カレーも美味しいですけどね、ムスリムミールを頼むたびにカレーが出てくるのに飽きましたw 確かにカレーを出しておけば無難ですよ。インド亜大陸のムスリムだけで全ムスリム人口の相当数を占めるはず。でもさ、でもさ、ムスリムミール=カレーな図式にはもううんざりだ!!!

蓋を開けたらカレー
カレー

 しかも正直、美味しくない・・・日本発便でインディカ米なのも理解不能。持ち込んだパン類でお腹を満たしましたとさ。それでも、直行便なのはいいですね。やっぱり楽。

 到着したらきちんと迎えが居るんでしょうか。過去、迎えの人ときちんと会えたためしがありません。国内線で到着したのに国際線ターミナルで待ってたり、外(お出迎えエリア)に居ると思ってたら中(荷物引取りエリア)に居たためすれ違ったり。今回はどうだろう?と思いながら飛行機を降りたら、あらビックリ!! 飛行機降りて空港の建物に入ったすぐのあたりで名前持って待ってましたよ。SEAゲームってスゲー。しかも、この場でIDカードも作ってくれました。ちなみにスタッフさんは学生さんだったようです。日本語勉強してます、って子もいた。

登録センター
カレー

 IDを貰うと、支払い免除にこそならないものの、列に並ぶことなくVOAの手続きを済ませられました。そして、空港での担当者とは別に、審判団のLOが外で待ってました。LOと一緒に大会事務局が用意した、新車の匂いの残るトヨタのKIJANGで、宿舎でありシラットの競技会場でもあるパデポカンに向かいます。車内でLOは上司から「今日の夜はリッツカールトンでウェルカムパーティだから、審判たちを19時までに会場に連れて来る様に」とSMSを受け取ってました。今日は豪華ディナーかも!

 そこそこの渋滞で会場に着いたのは17時。まずは荷物を部屋に置きに行きました。相部屋だったのですが・・・使ってないベッドの上にcizmaのIDカードが。え、あれ、2枚??? ま、いっか。
 軽く着替えてすっきりした後、パデポカンで挨拶回り。年に1回は来てるので、顔見知りが多いのです。ウロウロしてたら、ちょうど審判講習が終わって、部屋に戻る審判たちとも会えました。知った顔、初めましての顔とありますが、SEAゲームでの審判チームは24名(審判要員は20名)。「今回は採点員だけじゃなくて、主審もさせるぞ」と大先輩に言われましたが、本気かな?SEAゲームで主審デビューは荷が重いなぁ。レベルが違いすぎるんだよ。

 今日の夕食はリッツカールトンのはずだったのですが、24人が移動できる乗り物を集合時間の3時間前に言われたのでは、手配できないのがインドネシア。回せる車はあっても、渋滞の中、会場入り時間に間に合うように迎えに来るためには、時間が足りなすぎでした。というわけで、残念ながら豪華ディナーは中止。機内食のリベンジができるかと思ったのですが・・・残念。

 そして、明日は丸一日フリーです。SEAゲームズの開会式はメイン会場であるパレンバンで行われるので、ジャカルタの我々はすることないそうで。ってだったら、9日集合、10,11日が審判講習でよかったじゃん!! 一日、何しよう。ちょうど充電用のコードが壊れてピンチだから、充電器でも買いに行くか。

11月11日(金):予想外のオフ

 SEAゲームは今日が開会式、シラットの初日は明日。でも開会式はジャカルタではなく、パレンバンで行われるため、ジャカルタ組はすることがない。なので、オフ日になりました。そんなの、最初っからわかってたことではないのかと。なぜにオフ日を設定しているのかと。着いた翌日がオフ、というのは体は楽だけど・・・なんか釈然としない。

 そういえば、昨夜、インドネシア人審判に「今日はオフだから、午後からボゴール行こう。審判仲間のお墓参りだ。タイの審判も一緒だし、一緒に行こう。行くよな?? cizmaが行くから、ともう車も手配してあるぞ。」と誘われていたのですが・・・そんな危険なシチュエーションに飛び込みたくはありません。 通常、SEAゲームの審判は大会参加資格のある「ASEAN諸国+東ティモール」から招聘されます。がしかし、今回はホスト国であるインドネシアの強硬な「域外から"中立な"審判の参加を求める」という主張により、ベトナム・シンガポール・マレーシアの枠を削って、日本・ドイツ・ベルギーから3名の審判が参加しているのです。枠を削られた国とは大分揉めたようで。そして、「インドネシアの求めに応じて」招聘されているので、3名の域外審判は「インドネシア寄り」審判と思われている節があります。って審判は皆、中立なんじゃ・・・?? という疑問はさておき、現実としてそういう状況なので、大会前にインドネシア組と小旅行なんて、道中なにがあってもなくても、他国になにを思われるかわかったもんじゃない。でも断りきれずに弱ってたところ、ナイスタイミングで師匠からSMSが。「今日、そっちに行くよ」 渡りに船とはまさにこのこと。「師匠が来るから一緒に出かけない」というのは立派に通用する理由なのです。

 さて、その師匠が来るのは金曜礼拝の後。午前中はモールに携帯の充電器を買いに行って来ました。歩くにはちょっと距離があるので、angkot…と思ったのですが、大通りを渡るのが面倒。折角大会事務局がホテルにLO(学生ボランティア)を配置しているのですから、その中の一人にojekしてもらいました。それにしても、インドネシアだと回線速度が遅いけれど、BBを使うのが日本より断然、楽しい。使えるアプリも多いし、電池も充電器もその他必要なものがすぐ手に入る。なにより、料金が安いよ!金曜礼拝に間に合うように、必要なものを買って、ojekしてくれた御礼にLOブースへの差し入れ(ドーナッツ)を手にangkotで宿舎へ戻ります。

 金曜礼拝を済ませ、お昼を食べて、師匠が来るのを待ちます。金曜礼拝後に来る、ということでしたから、早くても15時過ぎでしょう。それまで、会場の設営具合とか、シラットのオープニングで披露されるアトラクションのリハーサルを見学して過ごしました。シラットのオープニングアトラクションは、Panglipurという西ジャワに本拠地を置く有名な演武のグループで、かっこよいです。動きのいい、かっこいいシラットを見ると、自分を振り返って凹む・・・けど、その分モチベーションも上がるのです。ガンバロー

 さて、リハーサルも終わり、15時も過ぎましたが、師匠の来る気配がない。体調悪くしちゃったのかなぁ。ちょっと心配ですが、ここはインドネシアなので、SMSで「来る」と言ったからといって「なんで来ないの」と聞くのもどうかと。とはいえ、もう、特にすることもありません。あまり期待をせず、近所のお友達の家までノーアポで遊びに行ってみます。あ、居た。今日は少し早めに仕事から帰れたそうです。ひとしきりおしゃべりして日が暮れたので、お風呂を借りて宿舎に戻りました。
 いや、宿舎にもシャワーあるんですけどね、この時点ではお湯が壊れてました。水マンディは構わないけれど、水シャワーはちょっとつらいので、お風呂を借りた次第。どうもお湯供給の大元が壊れているようで、cizmaが宿泊している部屋だけでなく、、どの部屋もお湯が出ていないらしい。cizmaはまだいいですけど、ヨーロッパ組は8日の到着時から既に3日、水シャワー。ある意味、拷問かも。お湯が出るようになったのは、この日の夜からでした。

 いよいよ、明日から大会が始まります。国旗・国家を背負っての本気試合は初めて見るので、ドキドキです・・・

11月12日(土):開会式そして試合開始

 9時からシラットのオープニングなので、8時にロビー集合と昨夜伝達がありました。ホテルの隣が会場なのに、この集合時間の早さはなんとしたことか。開始前にミーティングをするにしても、早い。それでも時間を守って会場入りしたところ・・・なんと、既に観客が多数着席済でした。
 土曜日ですし、シラット関係者に動員がかかっていたようです。世界大会同様に各自所属する流派の道着を着て、着席位置も決められてます。招待席にもちらほら知った顔が見えます。師匠もここに座る予定。(招待席とVIP席は違う) 天井部分に吹き抜けがあるけれど、扇風機があるわけでもなく、当然エアコンもなく、そんな施設が満席なものだから、会場はもう暑くて熱くて気持ち悪いくらいです。審判の控え室にはかろうじて扇風機がありましたが、焼け石に水としか言い様がない。
 そんな暑さの中、シラットのオープニングが始まりました。超VIPのプラヴォノ氏を迎えて、彼による開会の辞、シラットデモンストレーションなど。シラットのデモンストレーションは、正直なところ昨日のリハの方が出来がよかったです。どうも、今朝になっていくつかフォーメーション(立ち位置)を変えたようで、そのことが影響したのでしょう。位置取りに手間取ったり、扇を落としてしまったりする場面が見られました。それを差っぴいても十分かっこいい人たちではありますが、リハの100%を見てるだけに、非常に残念。

会場内は禁煙です
禁煙

 開会式の後、午前は2試合行われました。イヤー・・・ホームのインドネシアへの応援が半端ない。予選でこれの大騒ぎかと思うと、決勝の日なんてどうなっちゃうんだろう?特に問題も起こらず午前の部は終了し、午後は14時からです。審判は30分前の13時半に会場スタンバイを言い渡されました。選手がスタンバイしていても、審判いなかったら試合できませんからね。選手を待つ審判の図はありでも、審判を待つ選手の図、というのはナシってことです。

 午後から、審判への暑さ対策が施されました。審判待機席に3つの扇風機投入、審判控え室にエアコン投入。これでなんとかやり過ごせそうです。でも、午後からcizmaにも採点員のお役目が回ってきたので、扇風機の恩恵にあまり与れませんでした。採点員の席にも卓上扇風機希望。

芳香剤は付いてません
扇風機

 予想以上にSEAゲームズの採点は疲れました。世界大会と違って気が抜けない。いや、世界大会を筆頭にどこでやる採点も真剣だけど、レベルの差が各国そんなにあるわけではないし、応援もコーチも選手も気合がまるで違うので、それに圧される感じ、とでも言うのか。勝利やメダルが即、お金(強化費やボーナス)と名誉に繋がると、こうも変わるか、と。スポーツによる国威掲揚、愛国心高揚、代理戦争って本当なんだなぁ、と実感しました。血で独立を勝ち取った国が多いエリアだし、基本的にどこも経済登り調子でお互いのライバル心もあるし、なんかこう・・・ボケっとした日本人なcizmaには入り込めないものがありました。でも、いい経験ではあります。

 午後の9試合は割と時間通りに終わり、夜はフリー。この調子でこの先2日間も夜がフリーなのか。これなら、別会場でやっているはずのTarung Derajatを観にいけるかも。できるなら、明日行ってみたい。LOに相談したら、車を手配できるか、上司に聞いてくれるそうです。

 夕ご飯を食べ終わり、まだ寝るには早い時間。食堂で一緒だったインドネシア審判たちに、夜市へ誘われました。夜市、というか、敷地内に出店されているお土産屋台です。特に買う予定はないのですが、「散歩ってことでいいじゃないか」と。同室のミャンマー審判と、その場にいたベルギー審判は何か買いたいようでしたし、行ってみることにします。

左がお土産、右がお食事
夜市

 屋台はこう・・・相変わらずどうしてこういうデザイン、なTシャツとポロシャツが沢山。もう、一種の風物詩。ミャンマー審判が「サイズと値段を聞いただけなのに、(インドネシア審判が)買ってくれてしまった。自分で支払いをしたいのに、そうさせてくれない」と言って、困惑顔です。ああ、インドネシア人が先に払ったら、この状況ではお金だけ受け取ることはしないよ。もちろん、自分で払おうとしても払わせてくれないのは当然。別の機会にご飯代を自分が持つとかで"お互い様"にするしかない。
 自分は買うつもりないのでそういう事態から逃げられると思っていたのに。あ、なんか買ってくれてる・・・うう、ありがたいけど、これ以上、家にお土産系のTシャツとかポロシャツ要らないんだよぅぅ。でももう買っちゃったのね・・・「別に特別な意味はないよ。友達だから」という額面どおりに受け取るからね!! 賄賂じゃないんだよね!! 同じく買ってもらってしまったベルギー審判は、「他に気になるものはあったけど、それを見たり指差すと買ってくれちゃうから、明日の昼に一人で来るよ・・・」と言ってました。手ぶらで食堂に行ったのに、部屋に戻るときには両手に袋。

 宿舎に戻る途中、先輩にまたもや「今日は採点員だったけど、明日は審判やらせるから」と言われてしまいました。え、SEAゲームの試合を捌ける自信ないですよ。ゴリ押しして招聘した審判のうち、一番の若手ですよ。前回の世界大会でも審判はやってませんよ。いいんですか、そんなのを大事なSEAゲームの試合で登用して? うー緊張する。でも、審判やらないと一人前じゃないよねえ・・・本当にお役目回ってくるのかしら。

11月13日(日):大会は続く

 大会2日目。今日の予定は午前中に12試合、午後に演武ソロtunggalの予選です。tunggalはほぼ確実に出ずっぱりが予想されます。午前の試合で審判デビゥとなりますかどうか。

期間限定で自販機登場
自販機

 結論から言えば、審判デビゥはなりませんでした。「午後はtunggalで活躍してもらうからね、今日はいいよ。明日は審判やらせるかな。」ですって。うーん・・・どうなるんだろう。 午後は先輩の宣言どおりに男子・女子の予選プールA,Bともに、つまりは全員分を採点しました。もうお腹いっぱいです。
 そういえば、初めて「武器を落とす」場面を見ました。世界大会では見たことないんですけどね、やっぱり緊張感が違うのかな。落とした選手の次の選手に影響しちゃうかな、と思ったら、本当に伝染した。次の選手は入場してきた時点で「自分もおなじことをしてしまったらどうしよう」というオーラ(?)を出してましたが、案の定といったところ。一度落とすとマイナス点がすごいから、盛り返すのはかなり無理。それでも、予選プールの相手に恵まれ、武器を落としてしまった選手も決勝ラウンドに駒を進めました。

 それにしても、15人分のtunggalをぶっ続けに見ると、というか、採点するとクラクラします。動いてないのにクエン酸プリーズ。アミノ酸くれーって感じになりました。そんなcizmaをインドネシア審判が「ビタミン剤打ってもらえ」と親切にも、医務室に連れて行ってくれました。ああデジャヴ。世界大会でもちょっとお腹の調子悪いんだよね、って言ったら、インドネシア審判に医務室連行されたな・・・さすがに今回のありがたい「注射」の申し出はお断りしました。針怖い。針嫌い。大体、このお医者さんは昨日、手袋しないで選手の鼻血を処理してた・・・今日は手袋してたけど。注射しないなら飲め、とビタミン剤を処方されて宿舎に戻りました。戻ったところ、LOが「車手配できました、18時には行けます!」と報告してきたので、着替えてTarung Derajatの偵察に行くことにします。LOも同行してくれるそう。

 Tarung DerajatはバンドゥンのDerajatさんが始めた空手ベースにシラットをふりかけた新しい格闘技らしいです。新しいのに、Derajatさんのマネージメント力がすごいんでしょうね、彼らの世界大会にはSBY来るし、今回のSEAゲームズでは公開競技種目となりました。公開競技種目とは、正式競技ではない(メダル獲得数にカウントされない)けれど、基本的には正式種目と同じような扱いでロゴが使えたり、ピクトグラムが与えられたりしています。でも、正式種目ではないためにLOも情報がない。私が出発前にKOMPASで仕入れた「13&14日にスナヤンのバスケットボールホールで開催」が唯一の手がかり。シラットが終わってから駆けつけても19時。やってるかどうかはわかりません。

TarungDerajat会場
TarungDerajat会場

 想定内ですが、本日分は終わってました・・・選手たちも既に会場を後にしており、直弟子っぽい人とちょっと話はできましたけど、どういう競技かを直に見ることは叶わず。
 このままご飯を食べて宿舎に戻ってもよかったんですけどね。バスケットボールホールはサッカー場の近くなんです。そして、今日はサッカー予選ラウンドのインドネシア対タイが行われています。歓声も聞こえるし、同行してくれたLO君がサッカーに興味ありそう。うーん、シラットに配属されたLOはある意味、ハズレ籤とも言えます。スナヤン近くだったら、あるいはメジャー競技に配属されれば美味しい思いもできたかもしれない。でも、シラットではジャカルタの外れでどこへも行けず、花形競技というわけでもなく。ちょっとカワイソウだし、ここまでついてきてくれたし、とサッカーを見ていくことにしました。最後まで居ると帰宅ラッシュにかかるから早めに会場を後にするけどね、と。

 二人ともIDカード持ってるので、そこはまあ、ゴニョゴニョ交渉力を発揮して、無料かつVIPエリアの隣、メディア席のあるところに潜り込むことに成功w そんな人は他にも居たようで、このエリアにはIDカードぶら下げた人や制服警官(子連れだったり)やスタッフシャツ着た人が沢山いました。

結構よいポジション
サッカー場

追加点が入った瞬間ちょっと後のメディア席
メディア

 追加点も入ってインドネシアがリードしてるし、最後まで居ると帰宅困難者になりそうなので、少し早めに会場を出ました。後で聞いたところ、さらなる追加点があり、最終的に3-1でインドネシアが勝ったそうです。

11月14日(月):まだ大会は続く

 大会3日目、今日は午前12試合、午後12試合の計24試合です。この試合で勝てばメダル確実、となります。シラットは3位決定戦をやらないので、準決勝に進出できれば負けてもメダルなのです。そう、今日の試合はある意味、メダルがかかった試合ばかり。そんな日に審判デビゥ・・・?これは、今大会における審判デビゥはないのではなかろうか。

 なんか毎日、仕事始めはインドネシア戦な気が。他の試合の倍は疲れる・・・午前中は某国審判が審判デビゥしまして。昨日は指名されなかったものだから、彼の興奮が傍から見てても明らか。でも残念ながらそれが裏目に出てしまい、試合の流れがヒッジョーに悪い。おかげで通常1試合15分程度で全て終わるところ、30分以上もかかってしまい、なんやかやで午前の部の終了時間が2時間押した。お昼休憩が1時間もないという状況です。
 ある意味、起用に応えられなかった審判さんはかなり凹んでます。でも、そんな彼には悪いけど、あのレベルでSEAゲームズの審判をしていいなら、cizmaだってヨーロッパでもっと審判をやっていいんじゃないか、という気分になりました。メダルのかかった本日の試合や、メダルの色を競う明日以降の試合で審判に指名されるとは思えませんが、来年のベルギーOPENではもっと積極的になろうと心に誓った、そんな昼下がり。

 午後の12試合では波乱が2つ。午前の部でインドネシアはベトナムに一敗し、メダルを一つ落としてます。そこへ来て、午後の対マレーシア戦で接戦の末に負けました。
 cizmaはその試合で採点をしていて・・・マレーシア勝利のスコアを出しました。シラットの勝敗は1ラウンド2分の3ラウンドの中で、有効な攻撃を積み重ねることによって得られるスコアによって決まります。合計が同点の場合、スコアの詳細内容によって勝者が決定されます。第3ラウンドの途中で自分のスコアが同点だと気づきました。他の審判がどういう点数をつけているかは知りませんが、第2ラウンドと第3ラウンドの休憩時間に横目で見たスクリーンは接戦だったはず。後ろの関係者な観客からは「3人の審判が同点だ。これはわからない。攻撃入れろ!!審判、点つけろ!!」と野次が飛んでます。うわ、これは、正直、ヤバイ。ここで白状しますが、この状況に気づいた後、インドネシアがマレーシアに対し1点でいいから何か有効な攻撃をしないものか、と祈るような気持ちで試合を見てました。がしかし!! 審判として"可"と判断する攻撃が入らない。自分の中での基準(審判講習で習ったことや規則に記載されてあること)を下回る攻撃ならいくつか入ってます。でもでも、"中立な"審判として、そのような攻撃に点をつけるのは何かが許しません。
 試合終了後、後ろからは「審判2人が同点だ。同点じゃないのは2-1でインドネシア勝利。同点をつけた審判がどちらに旗を挙げるかだ。」と声が聞こえます。インドネシア語がわかるのも困りもの。会場が固唾をのみ、また、控え席のインドネシア審判たちの視線がこちらを見ているようで、旗を挙げるのにド緊張。同点スコアでマレーシアに旗を挙げる予定なので、ペットボトルが自分に向って飛んでくるんじゃないか、と思いました。後ろの人に「裏切り者!」って殴られる覚悟もしましたよ・・・ 結局、3-2でマレーシア勝利。同点をつけたcizmaともう一人の審判はマレーシア勝利の旗を挙げたのです。(cizmaに向ってではありませんが)ペットボトルが飛びました。試合のダイジェストはyoutubeで見ることができます。

 興奮冷めやらぬ会場ですが、試合は続きます。本日のトリはインドネシア対ブルネイ。この試合は審判控え席で見てましたが・・・ホームアドバンテージって半端ない。 インドネシア選手の蹴りが意図せず、ブルネイ選手の顎(攻撃禁止エリア)にクリーンヒット。そのままブルネイ選手は崩れ落ちてしまいました。スコアはインドネシアリードですが、わざとターゲットエリア外に入った攻撃であれば、確実に警告発動で5点マイナスされます。5点もマイナスされたら、インドネシアは勝利が危うくなります。あるいは、ブルネイ選手が試合続行不可能であれば、インドネシアの負けが確定します。どうするのか、と思えば、マレーシア人審判はまず、ターゲットエリア外への攻撃が”意図せず"入ったと判断し、注意を与えマイナス1点。"意図せず"は外で見ていたcizmaにもわかるので、ブルネイ選手が崩れ落ちている状況からみると、甘い采配のような気もしますが、まあよしとします。さて、ブルネイ選手は試合続行可能でしょうか?医務班が呼ばれ、医師が診察します。軽く脳震盪起こしてるんじゃないかなぁ。規定の時間(1分)が過ぎた後、審判が医師に選手の様子を尋ねます。答えは聞こえませんが、審判がブルネイ選手に対しカウントを取り始めます。最終的にTKOによるインドネシア勝利となりました。こちらの試合もyoutubeに転がってました。

 試合後、マレーシア人審判に「あの場で警告でもよいのでは?」と聞いてみました。ルール上は警告でもいいレベルのクリーンヒットだったからです。「それは思ったけど、マイナス5点したらその場でインドネシアの負けが決定しちゃうよ。」あー、そっか。「まさか医者が"続行可能"って言うとはね。思わず聞き返したけど、答えが変わらないんだよ。それじゃカウントするしかないじゃん。」ごもっとも。
 試合続行不可能、との判断が出されてたら、インドネシアは負けです。ホームって医者も巻き込んで勝利を目指すんだ、とものすごい執念を見たと思います。ブルネイはこの決定に対し抗議する姿勢を見せましたが、結局そのプロセスは取りませんでした。部屋に戻った後、同室のミャンマー審判曰く「お医者さん、すごいね。これがホームの力ってヤツね。フェアだとは思わないけど、自国(ミャンマー)で開催しても同じようなことをすると思う。」と。多分、ブルネイも同様なんでしょう。選手の汗ってなんなんだろう、と思ってしまいます。国家を背負うとこういうもんなのかしら。

 夕飯時、インドネシア審判やその他関係者に「cizmaは中立なんだろう。なんであそこでマレーシアに旗を挙げるんだ。」と言われました。中立だからこそ、後で頭を抱えたくなるような採点をしなかっただけなのに。「1点でよかったんだよ」ええ、その1点を探しましたけどね、攻撃が入ってなかったんですってば。マレーシア選手の方が顔見知りで男前だったから贔屓した、とかじゃないですから!! 

11月15日(火):夜は演武部門決勝

 これまでの3日間は17時過ぎにはフリーになってました。でも、今日は夜までビッシリ!!です。午前と午後は準決勝をそれぞれ12試合。夜は演武部門の決勝です。予定表によれば、演武部門決勝は19時から22時、となっていますが・・・そんな時間まで観客は居るんでしょうか?審判、というか,cizmaの集中力はもつんでしょうか。

 ちなみに、今日の準決勝以降はメダルの"色"を賭けた試合になります。昨日までの段階で審判として起用されていないので、今大会での審判デビゥはなし、となりました。さすがに準決勝以降でいきなり起用はありえない。しかも、今日は夜に演武部門決勝がありますからね。こちらは演武ソロ同様、そして、世界大会と同じように、演武ソロtunggal男女・演武組ganda男女・演武チームregu男女の全部門で採点員に指名されるのが目に見えてます。出身国の選手が当該試合や演武部門に参加する審判は起用できませんから、参加選手がいなくて演武の規定型がわかっている審判となると、起用できる人員に限りがあるのです。

 夜に備えて体力温存、と言いたいところですが、インドネシア対ベトナムが午前だけで4つもあったり、さらに全部が準決勝なのでさすがにそうはいきません。インドネシアは準決勝でベトナムに勝てなければ、決勝に進めないのです。最大目標が金メダル全取り、というありえない設定の中、既に昨日までの準々決勝で2人敗退しています。ここで準決勝で全敗しようものなら・・・ああ、恐ろしい。とはいえ、気合だけで勝てるようなものではありません。審判だって採点員だって贔屓なしに試合を見ているんです。少なくとも、cizmaはそうです。
 でもそれを一番わかっていないのは、多分ベトナム。相当、被害妄想があるように思われる。インドネシア対ベトナム戦を採点していたら、ゲートから人が進入してくる気配。オイオイ、なんのためにゲートに関係者が配置されているのさ?そして、誰かと思えば視界に入ってきたのはベトナムの会長さん。どうやら採点スコアにご不満な様子。競技委員長らにクレームをつけていますが、とび蹴りを喰らう前になんとかゲートの外に出されました。ゲートの外から中の選手やらコーチやらになにか指示を出しています。「もういい、試合止めろ。大会ボイコットだ。」という内容だったのかもしれません。なんと、試合中のベトナム選手が審判のストップがないのに動きを止めて、視線をコーチに移してしまいます。これはチャンス!とばかりに攻撃を仕掛けたインドネシア選手に、さくっと倒され3点取られてしまいました。あーあ・・・ここまでかなりのリードでベトナムが勝ってたのに!! あ、コーチが怒ってる。「審判の指示なしに止まるなバカ」ってとこでしょうか。ってコーチたちも会長の指示で試合から引き上げかけてたよね?どっちが勝ってるかトータルのスコア見てなかったの?結局、勝てそうだという判断が働いたらしく、そのまま試合を続行、ベトナム勝利となりました。ベトナム会長の乱入はもう、お約束と思うしかないのではなかろうか。

 そんなハプニングのおかげで午前の部、終了時間が押した。45分しかない休憩時間ではさすがに無理があり、午後の部の開始も遅れる。これでは夜の部の開始も押してしまいそう。今日中に全部終わるの??
 さて、午後の仕事始めはインドネシア対ベトナム。本日最後のインドネシア対ベトナムです。cizmaはインドネシア贔屓でもアンチ・ベトナムでもありませんが、この試合で、そのレッテルを貼られたかもしれません。なんと、試合を中断し、競技委員長に呼び出されてしまいました。競技委員長と審判委員長が座る席では、各審判の採点内容がモニタリングされています。観客にはトータルスコアしか見えませんが、委員長たちからは各審判がどのタイミングで何点入れたかがわかるのです。試合を中断して審判が呼ばれることは、機械化以降発生するようになりました。警告や注意などのマイナス点を反対陣営につけていたりする場合、当該審判確認の下、その場で訂正するためです。
 競技委員長と審判委員長の席には、通常、シラットの「源流」としてインドネシア・マレーシア・ブルネイ・シンガポール出身の審判(国際審判資格1級保持者)が座ります。今回、私の経験では初めて、ベトナムがこの席に参加しました。今大会の競技委員長はマレーシアとシンガポール、審判員長はブルネイとインドネシア。この委員長とは別に、モニタリングにベトナムが参加していました。恐らく、このベトナム審判からクレームがつき、呼び出されたのだと思われます。cizma以外の4人はこの時点で4(or2)-0のスコア、ベトナムに足技による2ポイントを入れていたのです。でも、cizmaは0-0。なんで点を入れていないんだ?と。競技委員長(マレーシア)には「会場の雰囲気に飲まれてるのか?気にすることないぞ」と言われました。インドネシアの声援に押されて、ベトナムに点が辛くなっているということ?点をやらん、なんて思って採点しているわけではありません。資格取得時にレクチャーされた基準に達する攻撃だけを採点しているのです。それに3ポイント取る技以外は、各審判(採点員)の裁量に委ねられているはずです。自分の位置からは不明確だった、と主張すると(事実です。音だけで採点する審判にはなりたくない。)、審判委員長たち(ブルネイ&インドネシア)が「不明確なものをつける必要はない。」と無罪放免してくれました。うーん、"中立"だという信用がないのかなぁ(苦笑)

 午後の部も終わり、後は夜の演武決勝のみ。演武ソロ>表彰式>演武組>表彰式>演武チーム>表彰式という流れになってます。何時に終わるの??? 演武はまあ、順当・・だったとおもう、多分。演武部門では5人の採点員のうち、最低点をつけた1人と最高点をつけた1人のスコアはカットされ、残り3人のスコアの合計が選手の得点となります。ソロは男女各6人が演武しましたが、そのうちの8割でcizmaの点は「最低点」としてカットされました。cizmaの規定型の基準は、規定型作成者の師匠なので、かなり点が辛かったようです。がんがんマイナス入れてたら、SEAゲームズとは思えない点数になってしまった・・・ま、いいや。
 予想通り、全てのカテゴリーで採点員を務め、目がしょぼしょぼしながら終わって見れば日付が変わりそうな時間帯。会場を出てインドネシア審判と世間話をしていたら、通りかかったベトナムの会長に「日本は好きだけど、君は良くない審判だ。インドネシアの言うこと聞いてちゃだめだ、シラットがダメになる!」と、すごい形相で罵倒されちゃいました。エー・・・そんなこと言われても・・・インドネシアに手心加えたりしてないし、ベトナムの演武選手は世界大会から代替わりして、実際問題としてインドネシア選手より出来が悪かったんだもーん・・・ベトナムが演武で優勝できないのは審判のせいじゃないよう・・・審判同士で点数の打ち合わせなんてしてないし!! 疲れているのに、気分悪くなるよ。明日が休みでよかった。もう寝る。

11月16日(水):中休み

 決勝を明日に控え、今日は試合がありません。世界大会ではないので、ミーティングもなし。中休みのオフ日です。何しよう、そうだ師匠に会いに行こう。開会式と昨夜の演武決勝は観戦に来ていましたが、ゆっくり話す時間が取れなかったしね。昼前に師匠宅に着いて、しばしおしゃべり。でも先客の練習を見ていたら、一緒にやりたくなりました。疲れているのに、こればっかりは不思議です。師匠に道着を借りて、練習に合流します。これを見越して、マンディはできるように着替えやタオルは持ってきてる、そんな自分はシラット馬鹿なんでしょうか。
 昼ごはん食べて、またちょっと練習して。昨年の練習時には自分で動きを見せてくれていた師匠ですが、今年は基本、座って指示を出すだけです。やはり、体力が低下しているのでしょう・・・少しでも元気になってもらうには、どうしたらいいのかな。でもインドネシアに住むインドネシア人の平均寿命は、日本人のそれよりかなり短い。師匠はもう統計で言うところのそれに達しつつあったりもする。いろいろ考えちゃいます。正直、師匠の元を辞すのがツラい。でも、明日はまた試合があるし、昨日の疲れもまだあるので、名残惜しいけど日暮れ前に戻ります。年末にまた来ます、と約束して。

11月17日(木):決勝そして閉会式

 SEAゲームズ自体はまだ続きますが、シラットは今日が最終日。決勝を2試合やって表彰式というパターンを午前に3つ、午後に3つです。つまり、試合部門の決勝が12試合行われます。12試合のうちインドネシアが絡む決勝は8つ。準々決勝で2人、準決勝で2人負けてるということになります。8人のうち、4人は対戦相手がベトナムです。対するベトナムは決勝進出が7名。決勝でベトナムが全勝し、インドネシアが全敗すると、シラットにおける金メダル総数1位はベトナムになってしまいます。面子にかけて、2つは金メダルを取らないとインドネシア、ピンチです。

 午前の第2試合は大波乱。それについてはブログに書いてあります。結論から言えば、ベトナムは7人中6人が金メダルを手にし、インドネシアは8人中3人が金メダルを手にしました。インドネシアは演武部門での金メダル6個に助けられ、総数9個で金メダル数1位となりました。でもこれ、昨年の世界大会よりダウンしています。世界大会では10個金メダル取ってますから、試合部門でのメダル数が減っているんです。コーチの数を増やし、国からお金が出るようになり、国外(中国だって!!)で強化合宿を繰り返して、メダル総数が減っているとは、これ如何に。ベトナムが1敗した相手はマレーシアです。インドネシアは対ベトナムにまるで勝てていないので、マレーシアに勝ち方を学んだらいいんじゃないですかね。って死んでもやらないだろうな。

他競技の選手たちと思われる応援団
応援団

お巡りさん、仕事は?
お巡りさん

 マレーシアがベトナムに勝てるんです、インドネシアができないわけがない。インドネシアはもう少し、先達たちが築いた伝統に立ち返ったらいいと思います。シラットのベース、本質は「パワー」ではありません。うまく表現できないけれど、シラットの本質は「円」であり「流れ」。それを忘れて、ベトナムの"パワー"シラットに対抗すべく、"パワー"を求めるから勝てないんじゃないのかな。パワーはわかりやすいし、トレーニングしやすい。「円」を制御するにしても"パワー"は必須。でも、本質ではないとcizmaは思います。"パワー"だけで試合をすれば、真面目なベトナム人に、暢気なインドネシア人が勝てるとはとても思えない。シラットは空手でもテコンドーでもレスリングでもない、シラットはシラットです。シラットで勝つためには、"シラットであること"なんではないかと。難しいですけどね。まずは、中国でトレーニングするのは止めたらいいと思います。コーチの数も減らして、アドバイザー的に少し年配の人を投入したら、何か変わるんじゃないかな。柔道だって、欧米のパワーに負けて一時低迷したけど、本質に立ち返っていくらか盛り返したじゃない? 多分、そういうことなんだと思う。

 試合会場には、決勝を見に師匠が来てました。あまり顔色よくないなぁ・・・大会終わって明日からどうするの?と聞かれました。師匠の家に行くのも楽しいんですけど、それは年末に譲って、普段会えない人たちに会うことに時間を使うことにします、と。師匠が寂しそうな顔をしたのが気になりますが、恒例の年末修行だと師匠の家に缶詰なので、「バンドゥンおいで」というお誘いをもう何年も実現していません。正確には、昨年日帰りで実現はしましたが、かなりのショートトリップ。今回は時間があるので1泊してこようと思います。何年もお誘いを実現していなかった結果、その間にバンドゥンの先生の奥様が亡くなられる、ということもありました。先生が「家族を紹介するよ」とおっしゃっていたのに、結局、奥様には会えずに終わってしまった。そういうことは、もう、できるだけ避けたいのです。

11月18日(金):バンドゥンへ

 朝イチのトラヴェルはさすがに日の出前で早すぎるので、その次、7時の便でバンドゥンへ。乗り場へはLOにまたもやojekしてもらいました。

全11席だったかな
車内

 途中で立ち寄ったPAで、トイレのキレイさにびっくりしました。トイレだけではなく、他の設備・施設もきれいだったなぁ。そういえば、最近は以前に比べて女子トイレで小さなごみ箱がある率が上がりましたね。紙ナプが普及した結果でしょうか。
 利用したトラヴェルは目的地まで送ってくれるタイプではなく、乗り場から降り場へ連れて行ってくれるだけ。バンドゥン市内に着いたら、後は自力で辿りつかないといけません。先生宅近所の目安となる建物は「rumah sakit fatmawatih」。トラヴェルの運転手さんに事前に伝えてあったので、降り場の手前で「ここで向こうに向う23番のangkotに乗り換えれば病院の前を通る」と降ろされました。道を渡ると、すぐに23番発見。車内の女子学生の会話がイマイチわからない。雰囲気もジャカルタと違うなぁ。スンダの地に来た、という感じ。運ちゃんに「ここだよ」と降ろされた場所は、確かに病院の目の前。さて、ここからどうすれば?先生に電話すると「ベチャに乗って・・・うーん、やっぱり迎えに行くわ。」と、待つことしばし。1年ぶりの再会です。

雨にも負けず
練習

 午後は小雨というかどしゃ降りの雨。それでも、雨の止み間に練習を見学できました。バンドゥン寒いのに、雨の中で練習して、皆よく風邪引かないよ・・・夜、もう一ヶ所の練習を見学し、ジャカルタに用事があるという先生と一緒に、明日宿舎に戻ることにしました。夕飯をいただき、先日のイベントの映像を見せてもらっていたところ、「師匠入院」のBBMが入りました。

 先日の疲れた師匠の様子やいろいろが思い起こされ、これはすぐにジャカルタ戻らないとダメでしょう。本日のトラヴェル最終便に乗りたい!と思ったのですが、金曜だからかな、満席でした。
 電話で様子を聞く限りでは、さすがにタクシーを飛ばして戻る状態ではないようです。病院へは近所に住み、師匠の子供同然の兄弟弟子が付き添っているのですが、天然ボケな兄ちゃんで話があまり要領を得ない。しかも、携帯のプランの関係なのか、3分ほど話すと通話が強制終了。どんな契約形態なんだよもう!! そんなこんなで"危機的状況"ではなさそうなものの、できるだけ早くジャカルタに戻りたいことに変わりはなく。
 朝イチのトラヴェルという手もありましたが、病院への足がない。バンドゥン>ジャカルタ(宿舎)>病院までという約束で、その場に居た先生の知り合いの友達に車を運転してもらうことにしました。このくらいの値段で、と提示された額は、当然トラヴェルより相当高額です。が、ジャカルタに早く戻りたいし、審判の日当が"ルピアで"出ているので懐がイタむ訳ではありません。飲むことにします。運転してくれる人の都合もあり、出発は明日の3時。気分は凹んでますが、元気になるためにもこの後、夜の練習にお邪魔しました。
 練習を見て元気になったというか、自分のモチベーションが上がった一方で、なんていうか、子供たちが上手で別な方向に凹んだ。凹んでばかり居ても仕方ないのでね、練習しよう、うん。そのためにも、師匠には元気に復活して貰わねば!!

 出発までちょっとイヤなこともあったけど、それはシラットと関係ないところの話だし、自分の勘違いかもしれないし、twitterでリアルタイムに毒吐いてたから、ここでは割愛。

11月19日(土):トンボ帰りジャカルタ

 暗いうちにバンドゥンを出て、着いたら日が出てました。考えてみれば、ジャカルタを出て24時間しないうちに戻って来てる。LOにも驚かれた。とにかく部屋に荷物を置いて、マンディしてさっぱりし、朝ごはんを食べて、近くに住む友達を誘い、9時前には病院に向いました。なんでこんな自宅から遠い病院を選んでるんだろう???というくらいに遠かった・・・
 病室のベッドの上の師匠は、治療の成果なのか、閉会式に会ったときよりは、少し状態が良い印象を受けました。元気満々というわけではないけれど、確かに危機的状況というわけではなさそうです。でもここはインドネシアだしなぁ。なんか病院がシンプルで不安になる。看護師さんのお仕事を見る機会もありましたが、こうも「看護文化」が違うところから、日本に「見習い」状態で3年も居るのって大変だわ、としか思えなかったです。業務をこなしながら合格した人たち、尊敬です。

 人が居ると師匠がずーっとおしゃべりしていて、休めない。話したいのはわかるけれど、今、師匠に必要なのは休息と看護。長居するのも申し訳ない。後ろ髪を引かれる思いもありつつ、2時間弱で失礼しました。師匠が無理せず、きちんと自分の体を取り戻せますように。

 一緒にお見舞いに行った友達と、宿舎近くのモールで遅い昼を食べ、買物をした後に自宅にお邪魔して、日没までおしゃべり。明日はいよいよ帰国なので、荷造りしなくては。こちらも年末の再会を約束してお別れ。

11月20日(日):帰国へ

 荷造りは済んだものの、閉会式あたりからおかしかった体調がここへ来て、完全に風邪っぴき。午後には友達が来てくれる予定になってるのに・・・明日、成田着いたら午後から出社なのに・・・!! 朝ご飯食べて、あとはもう出発まで宿舎で寝てよう。ジャカルタの端まで遊びに来てくれた友人には申し訳ないことをした。お茶でも飲みながらおしゃべりしたかったなぁ。部屋でゴロゴロしながら、少ししか話せなかったです。

 空港まではLOが3人同行してくれて、車内は満席。なんだろう、ドーナッツ効果で(?)人気者だったみたいw 出発前もロビーで何人のLOと写真撮ったか、わからない。いつかまたあの若者たちに会うチャンスはあるのかなぁ??
 空港では、到着時に迎えてくれた空港詰のボランティアがチェックインまで面倒を見てくれました。SEAゲームズ関係者ということで、荷物の重量は不問、空港使用税も免除。国が絡むイベントの関係者って扱いが違うのねー。

大量にハサミが押収されてる謎
はさみ

 免税エリアで特に買物もせず時間を潰し・・・成田行直行便なので、他にもSEAゲームズ関係の日本人に会えました。搭乗前の少しの時間でしたけれど、他競技の方の話を聞けたのはいい機会でした。やっぱりシラットは「個人商店」で、例えるなら「相撲」が近い状況なんだな、と再認識しましたよ。その辺で感じたことや師匠の入院で思ったことがブログに反映されてるかも。

 3人掛け席を一人で占領し、体を横にできたのはラッキーでした。一応、そういう席を事前のチェックインで探したんですけど、実際に独り占めできるかどうかは飛行機のドアが閉まるまでわかりませんからね。

11月21日(月):成田着と後日談と番狂わせ

 無事に成田に到着しましたが、早朝すぎて空港の機能が動いてない。自販機すら止まってるって、どういうことさ!! 帰宅後、荷物を解くことなく、風邪っぴきな体を引きずって出社。これぞジャパニーズ。年末にインドネシア再訪を支えに、この冬を乗り切ろう。

 師匠は宣言どおり「2週間ほど」で退院しましたが、定期的な透析が必要な状況となりました。症状が落ち着き、自宅に戻れたのならいいのですが、無理言って退院したんじゃないかとちょっと心配です。自宅には看護師さんとお医者さんが居ませんからね。
 しかも、信じられないことに病院に付き添っていた兄弟弟子が、師匠より先にあっちに行っちゃいました。番狂わせにも程があるよ(涙)

Selamat jalan sahabatku
buhori