40日法要で日本からの弟子代表として挨拶させていただきました。それを軸にリライト。
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師匠と初めて会ったのは2002年の韓国である。この年、釜山で開催された第14回アジア競技大会において、競技プンチャック・シラットがエキシビション種目として競われたのだ。私が初めて選手として参加したこの大会に、師匠はデモチームの団長として参加していた。2000年のジャカルタにおけるプンチャック・シラット世界大会に参加できなかった私にとって、シラットの開会式で披露されたデモチームの演武が、初めて触れる本場インドネシアの真髄であった。自分が知っているシラットとはあまりにもかけ離れた動きに目を奪われた。なにかが決定的に違い、そして単純に、格好よかったのである。
さて、選手として自分が参加した種目は規定型を競う演武部門であった。競技者としての力量は別として、出来が悪すぎた原因の一つは日本にこの規定型を修めた指導者が居なかったことだろう。規定型をビデオでのみ習得しようというのは、土台無理があるのだ。しかもそのビデオすら、決定稿一歩手前のものだったと記憶している。そのような状況で、デモチームの団長その人が、規定型を制定した人物であると知った。この出会いを逃してなるものか、とその場で団長、つまりは師匠に指導を直談判した。ビデオ学習から制定者直々の指導へと、大きな変換である。
これ以降、私のジャカルタ詣でが始まった。初めこそ、日本から4人で出かけ、シラットの合宿所での指導であったが、2回目以降は一人で師匠宅に泊りこむようになった。初回の合宿指導ではまだ、「先生」であったように思う。それでも、師匠の指導の中にシラットがただのスポーツ競技ではない、師匠が連綿と受け継いできた何かがあった。
単独で指導を受けることになった2回目の滞在時、Cimandeで正式に入門した。入門したことで、競技シラットの規定型だけでなく、現在数多くあるシラット伝統流派の源流であるCimandeをも指導してもらえるようになった。その指導を受ける中でシラットが人生の一部となること、あるいは、シラットが人生を導くことを学んだ。シラットはただの体の動きではなく哲学なのだ、と。こうして師匠は名実ともに「先生」から「師匠」になった。
もちろん、師匠も私もムスリムである以上、人生を導きまた指針となるのはイスラムの教えである。しかし、シラットもまたそれ自身がイスラムと不可分な存在であるが故に、人生の導き手となりえるのだ。これを言い換えるなら、人生の彩、人の繋がりを作り出すもの、だろう。師匠を通じて得た同門の繋がりは、まさしくシラットの哲学の一つである“kekeluargaan”だ。
師匠が亡くなったことで、もう直接指導を受けることができない寂しさは消えない。兄弟子から指導を受けたとしても、やはり、師匠とは違うのだ。別に指導の内容が違うのではない。事実として、兄弟子は兄弟子であり師匠は師匠なのだ。でも、兄弟子の指導の中に師匠の面影をみた。人の命が有限である以上、師匠もまた師匠の師匠の喪失に、その師匠の師匠のそのまた師匠もまたその喪失に直面し、そしてそれを越えて知識と技術、哲学を連綿と受け継いでいる。これは兄弟子の中に師匠が居たように、師匠の中には師匠の師匠が、そのまた先の先達たちが宿っていたのだろう。兄弟子ほど師匠の教えを血肉にできていない自分の中に、どれだけ師匠が残っているかわからない。それだけ、自分から人に伝えるにはあまりに未熟だ。それでも、師匠が伝えてくれたシラットを自分だけで終わらせることなく、縁あって連なったこの伝承の糸を、たとえわずかでもどこかに繋いでいきたい。伝えられたものを磨き、伝え、途絶えさせないことこそが、師匠と先達たちへの感謝になると思っている。
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