The Raid鑑賞

縁あってインドネシア映画「The Raid」を日本語字幕で見た。一言で感想を言うならば「疲れた。」につきる。インドネシアで見た友人がfilm sadistと言っていたけれど、まあ、言い得て妙だ。

主演のイコ君の2作目にしてかなりの出世作となるであろう、この作品。なんせハリウッドリメイクが決まっているくらい、全世界でオリジナルの評判(と多分興行成績)がいいらしい。イコ君がpesilat(シラットの使い手)ということもあり、他のアクション映画との差別化キーワードのひとつは’シラット’。
とはいえ、全100分の最初30分は銃火機戦なのでイコ君出番なし。出番なし、というよりはフォーカスされてない、って感じ? 肉弾戦は後半のメイン。

さて、あとは思い付くままダラダラと。ネタバレにもなるので、未見の場合はスルーしてください。最後の最後に感想まとめてます。

↓ここからネタバレ
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最初のシーンでイコ君が信仰心篤い、かつ鍛練熱心で真面目な性格が描かれ、身重の奥さんがいることが判明する。観賞後のインドネシア人が「いやー、あのシーンの’aku cinta kamu’は要らないでしょ。」に同感。アクションの脚本書く人は甘い台詞を書くのが苦手?aku cinta kamuって夫婦なんだしさ、なんかもっとこうさ…

乗り込むシーンは朝、雨の中。車内での会話、写り方に早くも全滅フラグな予感。前作ムランタウ(邦題「ザ・タイガーキッド」)で主人公死んでるからなぁ、油断ならん。ただ、ここで一番気になったのは字幕。「魔窟に乗り込む(字幕)」と「ごみ溜めを一掃する(台詞)」は大分ニュアンスが違うように感じる。まあ、映画紹介が「闇社会のボスが君臨する高層マンションに乗り込む警察チーム!!」だから’魔窟’の方がかっこいいし、ダンジョン感(なにそれ)あるけどね。

潜入シーンでは堅気の住民の扱いにイコ君の人間性が描写され。つか、この魔窟に堅気の住民も居るんだ??家賃格安なのかしら。あ、その前にチームは警部補と合流するんだった。そして警部補は装備軽すぎでしょ、一人だけノーヘルって。ある意味、生き残りフラグか。でなんやかやしてたら潜入がバレて、さー大変!!!
各階各住戸から手下三下がわんさか湧き出して、20名ほどの警察側と手を変え品を変え、打って殺して殺されて打ってドンパチドドドーーン。この時点で血糊にかなりお腹いっぱい。

魔窟のボスを逮捕すべく潜入した30階建マンションの6階で足止めを食らう主人公たち。いやそれにしても安普請だな、オイ。音が違う、若干腐りかけた床板をぶち壊したら、下の階の部屋に行けるって…ま、古い建物みたいだし、この設定なかったら袋小路の行き止まりだもんなあ。
そしてコンポールのガスで作った即席爆弾炸裂。都市ガスじゃできない荒業w

主人公と同僚が7階に、残りの隊長、警部補+1(部下A)の3名が5階に退却。7階ではイコ君のシラット炸裂。ただ、基本ナイフの接近戦なので見てて痛い…ブスブシュドスっとな。R指定かけた方がいいよ、これ。イタタタタ

イコ君一人で1ダースほどの敵を全滅させ、潜入時に登場した堅気の住民の部屋にかくまってもらう二人。なんせ相方が重傷ですから、どこかに隠さなければ、逃げ道を探すこともできません。いやそれにしてもこんなマンションに住める堅気ってどんな神経してるんだ…彼に裏切られる、あるいは実は堅気に見えた彼こそ真の実力者ということもなく、追手の家捜しをやり過ごすイコ君。
追手が「ここには居ないな、他を探すぞ!」と出て行ってから、重傷の相方をソファーに寝かし、彼のお腹から被弾した弾を取り出すのですが…スタッフもここまでのドンパチにお腹一杯だったのでしょう、ちょっとしたギャグを挟んできました。

イコ「なんでもいい、ナイフを!」
家主の堅気住民「こ、これしか」
渡されたのはバターナイフ。
家主の堅気住民「他にはスプーンなら」

えー、この下りで笑っていたのは私とインドネシア人のみ。日本人の鑑賞法がお行儀いいのか、私の笑いツボがもうどこかズレてしまったのか、どっちだろう…?

そういえば、部屋に入れてもらうときの字幕もちょっと気になった。最初、大声で必死の形相で「開けるんだ、中に入れろ(字幕)」、その後、追手が近づいてる気配があり、少し声を潜めて真摯に「開けてくれ(字幕)」。様子が違うから、こう訳し分けられるんだろうけど、どっちも「Tolong(pleaseの意)」ってつけてるんだよね。イコ君の性格描写(いい人)を考えれば、前半の命令口調はいまいちそぐわないと思う。

この後はなんだっけかな、あ、下に逃げた隊長他2名のシーンだ。イコ君たち二人はどうせもう死んでるからこのまま外へ逃げようと言う警部補に対し、死んだ確証がない以上、これ以上警部補のために部下は死なせない、と合流を目指す隊長。結局、追手に見つかって警部補と部下Aは上へ逃げ、隊長は「ここは俺が食い止める」的な流れに。隊長が対峙した相手は「肉弾戦じゃないと意味ないだろ?」な脳筋さん。ちなみにこの脳筋さんは魔窟のボスの右腕(武闘担当)。そしてシラット使いな脳筋さんと柔道使いな隊長の肉弾戦は、これまたイタタタな感じで。しかも隊長死んじゃうし…最後には誰もいなくなっちゃうのか?

とうとうこの辺からアクションというか、イタいシーンに脳みそが防御反応を示し始め、肉弾戦がギャグに見えてくる。

ここへ来て、イコ君は魔窟のボスの右腕(頭脳担当)となっていた兄貴と再会。イコ君の目的は兄貴を連れ帰ることでもあったのです! 驚きの事実ってほどではないですけどね。随所に伏線あったし。

ああ、なんか鑑賞記書くの飽きてきたw

イコ君と接触して逃がそうとしたのがボスにバレた兄貴は脳筋さんにいたぶられてるところを、警部補たちと合流したイコ君が発見。警部補と部下Aはボスの部屋を目指し(帰り道の確保のため)、イコは兄貴を救出。脳筋さん対イコ+兄貴のシラット対決が始まります。そして脳筋さんはジャンプ漫画並みに不死身。あそこまでやってくれるとギャグです。最終的には兄弟力合わせてやっつけるんだけど、そこまでゾンビでしたよ。

最後のシーン、ボスは警察と癒着してました、警部補はアホですね(部下Aを殺害)、イコ君強いね、兄弟の絆は生きる場所が違っても切れないよ、というラストってことでいいのかな。
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↑ここまでネタバレ

一番最初に書いたとおり、差別化のキーワードのひとつが「シラット」。他のアクション映画を大して見たことはないので、どう違うかはわからない。それでも、ベースにある「円」「流れる」動きはシラット的と言っていいと思う。でも、残念ながら前作ムランタウ以上に「シラット」らしさはない。いみじくもイコ君がテレビで言っていたように「ベースはシラットだけど、それをもっとユニバーサルなものにした」結果、’らしさが薄れた’と言っていい。「シラットらしさ」とは動きにあるのではなく、シラットの練習で培う精神にあるはず。ムランタウではその精神を主人公の行動に見ることができた。本作では主人公がそのような精神の持ち主であることは暗示されるけど、それをもってこの作品を「シラットの映画」とカテゴライズするのは厳しいなぁ。この映画を見て「シラットをやりたい」と思った人は、アーニス、カリ、ローコンバットの門を叩いた方が満足度が高いのではなかろうか。でも、あまり「目新しい」動きがなかったということは、見慣れた動きが多かったということであり、「うわ無理」と思う動きもなかったということは、やはりこの映画の基本は’シラット’なんだな、とも思う。

残念ながら画面に写る動きで「シラットってかっこいい」とは思えなかった。それでも、「シラット」とインドネシアの知名度向上に繋がるなら、ま、いっか。そして「かっこいい」シラットは知る人ぞ知るマイナー街道まっしぐらってことでw

映画自体は字幕にいくつか気になる点があり、イタいシーンが多くてグロッキーではあるものの、アクション好きな人にはOK、インドネシア語をヒアリングしたい人にはおすすめ、疲れてる人にはNGな映画かと思います。

cizma について

東京砂
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9 Responses to The Raid鑑賞

  1. ahmad のコメント:

    現役のシラット使いとしてパンフへの寄稿を希望しますw

    ムランタウよりは一般受け、アクション映画ファン受けすると思いますが、イタイのがちょっとネックかなあ。

    • cizma のコメント:

      配給会社のHPに出ました。5大都市での上映のようですね。
      アクション映画ファンには受けると思いますが、イコ君の男前っぷりを見たい女子の皆さんには「イタイ」シーンが多すぎです・・・

  2. さばー のコメント:

    うーん、違う意味で観て見たい(笑)。
    cizmaさんの論評が上手くて…「そんなにおっしゃるなら、是非観て笑いたい」と思ってしまいました。
    しかし…どうなんですか?

    ふと我に返った私。
    「もしかして、これってインド映画(正確には南インドのタミル映画)「ロボット」や「ムトゥ・踊るマハラジャ」を日本人が大喜びして観るレベルなのかしら?」と。

    あの「糞」映画が大ヒットなんてあり得ない!!!
    あんなのをインド映画の代表!!インド映画で一番の大ヒット作!!みたいに宣伝する広告会社の神経が許せない!!と思っているので。
    何?日本人って、「インド映画=歌って踊る、荒唐無稽な設定の、ドタバタムービーって思っているの?」って怒りが収まらないです。
    もっとインド映画にも「まとも」な映画って沢山あるのにぃ~。インド映画の本場はボリウッド(北インドにあたるボンベイ映画)なのにぃ~。それを全部無視して、「南インド」の「ドタバタムービー」ってどうよ!?って思うのですが・・・

    cizmaさん的には、The Raidは「インドネシア映画として海外に紹介するのに適している」映画ですか?
    これから将来インドネシア映画を目にする時の参考とさせて頂きますので。

    • cizma のコメント:

      ”一級アクション””本国のみならず世界でヒット!”という映画会社の宣伝文句にも偽りはないですし、「適している」と思います。
      なんですかね、日本では馴染みがないと「どうせつまらないんでしょ」「野暮ったそう」と思われがちな”非ハリウッド/ヨーロッパ”製映画。ちょっと前の韓国映画もそうだったと思いますが、そこをブレイクスルーした作品があったはず。「あ、あそこの国の映画も面白いじゃないか。」と認識を改めさせてくれるターニングポイントになる良作アクションだと思ってます。血糊多すぎですけどねー・・・ブシュドバーって。

  3. さばー のコメント:

    なるほど。ということは、期待しちゃっていいってことですね♪
    福島では「どーせ」上映しないと思うので、DVD鑑賞まで我慢します・・・

    • cizma のコメント:

      で、では、まずは彼の第一作「ザ・タイガーキッド」をどうぞ。レンタルもできるはずです。シラットらしさはこちらの方がTheRaidよりありますので、「あーこんな感じなのね」と予習(?)するにはいいかと。

  4. ahmad のコメント:

    普通の日本人よりは多少インドネシア映画を見てきた私の考えでは、The Raid にローカル臭は希薄です。製作者は初めから国際市場を念頭に作っています。簡単なプロットだけでストーリーはなし、でもアクションはたっぷり(というより山盛り)という構成です。実際北米でヒットしたことは事実ですから、見事に目論見が成功したと言えるでしょう。

    ただ、インドネシア映画全体の傾向からすれば、本作は明らかに例外に属しますね。基本的にこちらでヒットあるいは市場占有率が高いのはホラーかティーン向けラブロマンスです。他にイスラムものや児童向けもあります。The Raidのようなバリバリのアクション映画は希少と言ってもいいので、これをもってインドネシア映画を代表させていいのかどうか。

    とは言え、近隣諸国の映画に比較して国際市場で知名度が低いインドネシア映画なので、本作が突破口になることは間違いなく、今後の展開が期待されます。

    あと、「ロボット」はDVDを買ったきりで未見ですが、それほど酷い映画でしょうかね?インドでは三言語で大ヒットし、松岡環さんもおススメしていますし、あの鈴木則文監督もキネマ旬報で褒めてましたよ。まあラージニカントはインドの代表というより、タミルの代表と言う方がふさわしいとは私も思いますが…

  5. くろべえ のコメント:

    フィリピン在住です。
    昨日こちらで観ました。
    ちびのマッドドッグのシラットが最高!!

    • cizma のコメント:

      日本で見られるのはまだまだ先、10月27日です。フィリピンでも観られるんですねー!

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